Teen Town Blues

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ミシムの住む東京郊外にある住宅地の一角には小さな飛行場がある
その昔には現在の府中市、調布市、三鷹市を含む広大な旧米軍施設「調布関東村」の敷地で治外法権の米国領土だったのだろう
彼はそんなことは知らないし興味もない
ただぽつんとあるアメリカンスクールまでの建造物のない道に疑問を感じ飛行場が見渡せるプロペラカフェはお気に入りの場所だった

スタジアムから東京外国語大学の先まで一直線に北に伸びる道の途中に小さなワゴン車を止めドラムセットを組み立て叩きまくっている青年をたまに見かけた
その日も太陽は燦々と輝きコンクリートの路面は熱を反射させ上半身裸の彼は飛び散る汗などかまわず一心不乱にビートを刻むというよりリング上のボクサーのようにドラムセットと格闘している
ミシムは「たいへんなこった」と思いながら通り過ぎようとしていたのだが「お〜い」と大きな声で呼び止められた

彼はサカモトと名のり「何回か通り過ぎてるけど外大?」ミシムは首を横に振り「散歩コースなんだ」と答えた
「君、何か楽器ができないか?」と尋ねてきたので「俺は怠け者なんだ」と応えた
「ふ~ん、でもそういう奴ってPCが得意でネットばっかりやってんだろ? そんな感じには見えないけどね」と勝手なことを言い始めた
止まりそうもない彼の話は音楽から始まりそのジャンルや社会や経済や政治、果ては宇宙の話にまで広がった
ミシムにはほとんどがどうでもいいことだったが「限界まで叩くことで自分が自分でいられる気がするんだ…どこまでが限界か分からないけどね」と言ってジャマイカンのように笑った顔が素敵だな、と思った

近くの飛行場からはブリテン ノーマン式のプロペラ機が飛びたった
その風景は二人の行く末を暗示しているかのように見えたがサカモトは「うるせえなぁ」と言ってまたドラム椅子に座りアフリカンビートのようなリズムを叩き始めた
ミシムは目で「またな」と合図をして帰路についた
帰宅したらハービーハンコックのヘッドハンターズを聴こうと決めた

さりげない出会いは時として複雑に絡み合った自分の一部を知る鏡になる

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