Teen Town Blues #3

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am9:30ピッタリにiPhoneの電話のベル音が鳴った
近所に住むナタリーという一人暮らしの73歳のお婆ちゃまからだ
「何かあったの?」
ミシムは二日酔いの頭をフル回転させて様々なことを想像したが彼女のハッハッハッハッ…という笑い声でホッとした
「あんたねぇ、約束忘れたの?」
そういえばちょっと前にばったり出くわした時に興味のありそうな本をいただくことになっていたのだ
彼女は画家、亡くなったお爺ちゃまは書評家だったので1Fはアトリエ2Fは書庫だ
もう2Fに上がる体力もないからほとんどの本を街の図書館に寄贈するそうだ
好きな物をあげるから午前中においでと言われた日だったのだ
急いで顔を洗い徒歩で2分ほどの彼女の家のインターホンを押した

ドアを開けると絵具の香りが充満するアトリエがあり壁や床は飛び散った色で彩られ自然なアート空間になっている
さりげなく置かれたアルパーと思われるモダンな椅子に通され座っていると日本茶と羊羹をを「どうぞ」と薦められた
そのギャップが日本人の僕には妙に可笑しく思わず笑ってしまったが彼女は不思議そうな顔をしていた
軽い話の後、お年寄りには急勾配の階段を上り本を眺めた
床が抜けてしまうんじゃないかと思えるほどの小さな図書館のような部屋は中古レコード店のような透明感のある香りがした
ミシムには題名さえ読めないような本が乱雑に散らばっていて眠気の覚めない脳は吉本隆明のようなポピュラーなものを7冊ほど選んだ
時代を超えた宝物がおそらく数えきれないほどあったのだろうが彼にはとても難しく思えたのだ

一頻り目の保養をした頃には昼時になっていた
ランチに誘われたが夕方には重いベースを担いで出なければならない
それまで少しでも眠り頭をスッキリさせて現場に向かいたかったので「このお礼はまたさせていただきます」と云った
彼女の悲しそうな表情に心が痛んだが、とても現実的でないリハーサルのメニューを考えると致し方無かった

今夜は至る所で花火大会がある
その予行練習であろう空砲の音を聞きながら家の玄関を開けた
500ccのビールを開けいただいたばかりの本を広げていたら自然と眠りについた
目を覚ました時の現実感はとてもリアルで慌てて近くにあったジーンズとラモーンズのティーシャツを着てスタジオに向かった

今夜はどんな音色を奏でられるのだろう
音は瞬間を切り取っていく
それは「生きる」こととよく似ている、そんなことを考えながら駅に向かった

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